国内の乳幼児におけるビタミンDの体内蓄積状況を調査したところ、0~6カ月齢の乳児の3割以上がビタミンD欠乏状態にあり、およそ半数が不足状態にあることが分かった。また、母乳栄養が中心の0~6カ月齢児では、50%がビタミンD欠乏状態、25%が不足状態であり、欠乏状態と合わせると75%がビタミンD不足の状態にあった。9月2~3日に開催された第27回日本外来小児科学会(開催地:三重県津市)で、順天堂大学小児科の中野聡氏らが発表した。

 ビタミンDが欠乏状態にあり、下肢変形などの臨床症状を伴う場合をビタミンD欠乏症と呼ぶ。ビタミンD欠乏症は先進国で再燃傾向にあり、特に乳幼児での報告が世界的に増加している。原因としては、アレルギー治療のための食事制限や日光浴不足、母乳栄養中心の乳児で離乳食への移行が適切に進まない場合などがある。ビタミンD欠乏状態の乳幼児の頻度は、人種や日照時間、服装の文化などの影響を受けるため国によって異なるが、日本における頻度はこれまで不明だった。

 今回中野氏らは、東京都と静岡県における生後48カ月までの健康な乳幼児290例(うち男児166例)を対象に、血清25水酸化ビタミンD(血清25OHD)値の測定を行った(期間は2011年5月~2012年7月)。月齢によって離乳食の導入状況が異なるため、離乳食移行前の0~6カ月齢群(55例)、離乳食に移行した7~12カ月齢群(58例)、離乳が完了した13~48カ月齢群(177例)の3群に分け、それぞれRIA2抗体法で血清25OHD値を測定した。昨年報告された国際的なコンセンサスに基づいて、12ng/mL未満をビタミンD欠乏状態、12~20 ng/mLを不足状態、20 ng/mL超を正常とした。血清25OHDとはビタミンDの代謝産物で、血中で長時間維持されるため、ビタミンDの体内蓄積状況を示す指標として利用されている。

 調査の結果、対象にくる病の乳幼児はいなかったものの、全体の7.2%にビタミンDの欠乏を認め、特に0~6カ月齢群では欠乏状態の頻度が他の群と比べて有意に高かった。0~6カ月齢群では32.7%が欠乏状態で、16.4%が不足状態だった。7~12カ月齢群では3.5%が欠乏状態で、6.9%が不足状態、13~48カ月齢群では0.6%が欠乏状態で、15.3%が不足状態だった(図1)。

図1 ビタミンD欠乏の頻度 (中野氏発表資料より、図2とも)

 中野氏らはこの結果をさらに詳細に分析すべく、0~6カ月齢群の55例のうち栄養の摂取方法を聴取できた49例を、母乳栄養群(28例)と人工乳(牛乳や豆乳に糖質・ビタミン・ミネラルなどを添加したもの)を使用する人工/混合栄養群(21例)に分けて血清25OHD値を解析した。

 解析の結果、母乳栄養群では人工/混合栄養群と比較して有意に血清25OHD値が低く、ビタミンD欠乏状態にある乳児が多かった(図2)。血清25OHD値は、母乳栄養群が中央値12ng/mLで、人工/混合栄養群が中央値34ng/mLだった(p<0.01)。ビタミンD欠乏状態については、母乳栄養群が欠乏50%、不足25%、正常25%で、人工/混合栄養群は欠乏9.5%、不足9.5%、正常81%だった(p<0.01)。

図2 ビタミンDの欠乏と栄養方法

 これらの結果を踏まえ、中野氏は「日本でもビタミンDの不足は稀ではないことが明らかになった。中でも、離乳前の0~6カ月齢児でビタミンD欠乏や不足が見られる例が多く、その比率は母乳栄養中心の乳児で高かった」とまとめた。

 共同演者であるクリニックばんびいに(港区白金台)院長の時田章史氏は、「母乳は大変素晴らしい栄養源であり、小児科医としても母乳栄養は勧めている」と話す。実際、日本小児科学会は母乳推進プロジェクトを行っており、母乳による育児を推奨している。しかし、母乳にはビタミンDが少なく、母親が日光浴をしたり十分なビタミンDを摂取していても、人工乳並みに母乳中のビタミンD濃度を上げることは難しい。母乳のビタミンD濃度は0.06~0.3μg/100mL程度で、人工乳の1μg/100mLと比較すると半分以下。厚生労働省が定める乳児のビタミンD摂取量の目安は1日あたり5μgで、母乳栄養だけでは目安量に届かないことが報告されている。時田氏は「母乳中心で育てる場合は、乳児がビタミンD不足にならないよう十分に注意する必用がある」と説明する。

 乳幼児のビタミンD不足の対策として、時田氏は子どもの日光浴とサプリメントの摂取を勧めている。「外気浴では十分な紫外線を浴びることができないため、赤ちゃんに日光浴をさせる必要がある。ただし、日光浴だけでも不足する可能性は残るので、心配な場合は子ども用サプリメントも併用するとよい」と同氏は話す。ビタミンDの含有食品として、液体のサプリメントが販売されている。「1日に1回、1~2滴を乳首に垂らして幼児に授乳させれば、必要なビタミンDを摂取できる。母乳を中心に育てたいお母さんに勧めている」と時田氏は話している。